一般社団法人 地域在宅支援センター / 理事長 澤田由紀子 氏 / 理事 建林典夫 氏 / 理事 薦田武博 氏
超高齢社会を迎え、介護現場の人手不足や独居高齢者の孤立は深刻さを増している。
そうした中、大阪市東住吉区で訪問介護に携わる事業者3社が手を取り合い、高齢者・障がい者・外国人留学生がひとつ屋根の下で暮らすシェアハウスや、身元保証、留学生支援を組み合わせた先進的な取り組みを進めて成果をあげている。
文化の違いを乗り越えて生まれる家族のような絆と、制度の隙間を埋める「民間包括」への挑戦。
地域社会の課題解決に向けた歩みと今後の展望について、理事の皆様に話を聞いた。

競合3社の結束が生んだ共生型シェアハウスと高齢者の劇的な変化
2016年8月、大阪市東住吉区で「ヘルパーステーションアシストゆぎ」を営む澤田由紀子氏、「東住吉介護センター」を営む建林典夫氏、「藍アシストケアサービス」を営む薦田武博氏の3名で「一般社団法人地域在宅支援センター」が設立された。
※2025年2月「デイサービス リボン」を営む島崎啓輔氏が地域在宅支援センターの理念に賛同し合流。現在4名の支援体制へと強化された。
本来ならお互い競合関係にあるはずのライバル同士が手を携えた背景には、介護業界が抱える切実な事情があったという。
建林:在宅の利用者様が入院したり施設へ入所されたりすると、我々とはそこで関わりが途切れてしまいます。事業者としての仕事がなくなるだけでなく、現場のヘルパーさんにも「もう少し支えてあげたかった」という心残りが生じていました。在宅の介護と施設の介護だけではなく、住み慣れた地域で自由に暮らし続けられる住まいを提供できないかと考えて、自由度のある共同生活の場として、西今川に一軒家を借りてシェアハウスを始めました。
そのシェアハウスの上の階には現在、スリランカ出身の女性留学生が3名生活している。
彼女たちは日本語を学びながら日本で介護職を目指しており、シェアハウスの入居者とも良好な関係を築いている。だが、お互いのニーズが一致したように見える体制は、初めから計画されたものではなかった。
澤田:知り合いの日本語学校の先生から「介護の仕事に従事したい留学生がいるが、日本語がまだ不十分で進路に悩んでいる」と相談を受けたのが始まりです。
実際に会ってみると、言葉はたどたどしくても機転が利いて、周囲の動きを見て前向きに行動できる素晴らしい資質を持っていました。デイサービスで見学を兼ねてお手伝いをしてもらったところ、利用者様が立ち上がろうとしたらすぐ駆け寄って手を貸すなど、介護現場での適性があることを強く感じたのです。
高齢者や障がい者に住まいを提供するために始めたシェアハウスだったが、留学生が共同生活に加わったことで思わぬ効果が生まれた。
澤田:今シェアハウスに入居されている90歳過ぎの女性ですが、ひとりで暮らされていた頃はご自身で食事を準備するのも難しく、日中も無気力に過ごされていました。その人が19歳や20歳の若い女性留学生たちと一緒に暮らすようになったら、みるみる元気になられて、自ら食事を作ったり留学生たちの身の回りの世話をしたりし始めて、社会参加をしようという意欲が戻ってきたんですよ。ゴミ出しのルールとか日本のマナーも教えて、今ではすっかり“寮母さん”みたいになっています。

留学生がもたらした現場の意識改革と言語化による業務の効率化
高齢者や外国人に共通する困りごとは、身元保証人がいないことだ。高齢者は入院時、外国人は住まいを探す際に保証人を求められるため、同センターでは生活支援や死後事務までを包括した身元保証サービスに取り組んでいる。
シェアハウスでの実績もあり、法人として留学生を積極的に応援する方針が決まった。しかし、受け入れ当初はマニュアルもなく手探りで、言葉や文化の違いによる課題に直面した。
薦田:初期は語学力も基礎~中級レベルだったため、頻繁に話し合いの場を設けて意思の疎通を最優先にしました。文化の違いも心配しましたが、彼女たちは母国で大家族と暮らしていたこともあって、この下町の住環境にも思いのほかスムーズに馴染んでくれました。
建林:日本人同士なら、主語を省略して「あれ、やっといてね」という感じで指示を出しても通じます。でも、彼女らに曖昧な指示は通じないため、主語と述語を明確にして、何をやってほしいのかをはっきり言語化する習慣を徹底しました。その結果、指示がクリアになり、組織全体の業務ミスや伝達漏れが大幅に減少したのです。
澤田:食事の細かな味付けや宗教上の配慮など、食文化の相互理解には今も気を配っていますが、互いに歩み寄ることで壁を乗り越えています。
こうした丁寧なフォロー体制が整うにつれ、留学生が真面目に勤務する態度が日本人スタッフの間にも良い影響を与え始めた。例えば玄関で履物を揃える、約束した時間の5~10分前には指示された場所へ着いておくなど、彼女らの方が時間を守り基本ルールに忠実だという。そんな彼女たちの姿に刺激され、指導役を務めるベテランヘルパー自身に「自分がしっかりしなければ……」という意識が芽生えて、立ち居振る舞いを見直すなど、組織全体の意識改革へと発展していった。
現在では留学生の間で口コミも広がり、グループ全体で10人の留学生を受け入れる規模へと成長している。
澤田:先輩の留学生が後輩に生活や仕事のノウハウを教えるコミュニティもできています。今日はどこのスーパーで何が安いとか、お互いに情報を共有していますね。また、資格取得前でもデイサービスの手伝いを通じて利用者様と顔なじみになっているため、資格を取ってヘルパーとして訪問した際も、外国人という壁を感じさせず温かく受け入れられています。

公的制度の隙間を埋める「民間版地域包括センター」へ……外国人材を中核リーダーに育成する挑戦
今後、法人として留学生が安心して活躍できる中核拠点を確立し、活動を広げていきたいとの構想を描いている。
目指すは「民間包括支援」。
公的な地域包括支援センターや行政の窓口は、縦割り制度の弊害で支援の隙間が生じてしまう。その隙間を埋める受け皿になりたいという。
建林:現行の制度では、ここまでは介護保険でできるが、これ以上は対応できないという境界線が存在します。例えば「電球の交換をしてほしい」「扇風機を押し入れから出してほしい」といった日常生活で生じるニーズは介護保険の枠外なので、ヘルパーが内心「やってあげたい」と思っても、ルール違反になってしまいます。そうした制度の隙間を「制度だから」と切り捨てるのではなく、適正な料金設定をした自費サービスや便利屋的な支援メニューを柔軟に組み合わせて、高齢者の困りごとを支えたいと考えています。
留学生たちには、将来的に施設やサービスの責任者を任せられるレベルまで成長を期待するとともに、後輩を導くリーダーとしての活躍にも大きな期待を寄せている。
薦田:彼女たちの多くは、日本に永く住み続けたいという強い希望を持っています。単なる労働力ではなく、この東住吉の地に根を下ろし、将来を担う中核的な人材になってほしいのです。深刻な人手不足が続く中で、外国人材の受け入れを避けていては事業の継続は望めません。私たちのように同業者同士がライバル関係を越えて連携し、オープンに情報を共有してフォローし合える仕組みを作れば、個別の事業所が抱えるリスクや負担は最小限に抑えられます。
孤立させない、地域全体で支え合うコミュニティをともに広げていきたい。
高齢者と外国人留学生が互いを思いやり、笑顔で支え合うシェアハウス。それは単なる人手不足の解消にとどまらない。
制度の隙間を埋める「民間包括」の実践と、国境を越えた人材育成の挑戦が、ここ東住吉区で着実に実を結んでいる。
事業者の垣根を越えた連携が生み出す新しい事業モデルは、介護の枠組みを越えて、持続可能な地域づくりにも繋がっているのだ。

