合同会社 RKW / 代表 大津留 瑠希 氏
超高齢化社会により介護・福祉のサポートを必要とする人が増える一方で、この業界では人手不足が深刻化している。求人広告を出しても、人が集まらない。職場の魅力をうまく伝えられない。
そんな悩みに、「SNSを活用した採用支援」で応えるのが合同会社RKWだ。
代表である大津留 瑠希氏はまだ26歳。18歳で介護の世界に飛び込み、「給料を上げたい」という思いで始めたSNS運用がやがて仕事になり、24歳での会社設立へとつながった。現在は介護・福祉にとどまらず、他業界にもそのノウハウを広げようとしている。
プロ野球選手を目指した少年が、18歳で介護の世界へ
高校時代まで、野球一筋だった大津留氏。大阪から静岡の高校に野球推薦で進学し、寮生活を送りながらプロ野球選手を目指していた。しかし、次第に肘などに痛みを抱えるようになり、なんとか高校3年の夏までプレー。プロ野球チーム5球団からスカウトを受けるほどの実力者だったが、引退後に剥離骨折や靭帯損傷が判明した。
「ケガがなかったら、プロ(野球)に行っていたと思います。」
夢を断念して大阪に戻った大津留氏が、次に選んだのは介護の仕事だった。
叔父が介護の仕事をしており、身近な業界でもあった。自宅から近い特別養護老人ホームに飛び込み、無資格・未経験からスタート。付き添いや入浴、食事介助など、介護士としての仕事を一から経験し、働きながら介護福祉士の資格も取得した。
その後に大津留氏は、叔父が立ち上げたデイサービスへと移る。そこは2店舗目となる事業所で、これからスタッフを増やそうとしていた。当時、自分の給与額を上げてほしいと考えていた大津留氏は、あることを交渉する。
採用活動を自分にやらせてほしいと。多額の広告費をかけたりするんじゃなく、SNSを使ってアピールして、それで本当に応募が来て採用できたら給料を上げてくれと言ったんです。
SNSでの「介護のリアル」投稿で、スタッフ採用に貢献
2019〜2020年ごろの当時、企業がSNSを人材採用に活用するケースはほとんどなかった。
そんな中、大津留氏はInstagramやTikTok、Twitter(現在のX)などを使い、介護の現場を「ありのまま」発信していった。
アカウントのプロフィール欄には、求人の概要欄へのリンクを貼っていたが、動画では「日常の介護の様子」を伝えるだけ。求人広告のように「一緒に働きませんか」「スタッフ募集中」と呼びかけることはしなかった。
それでも、反響は大きかった。
ありのままを見せるというやり方が、それまでの業界にはなかったからだと思います。でも、アンチもすごく多かったです。
認知症の人や障害のある人をSNSに登場させることについて、「利用者さんを広告に使うな」といった批判も寄せられた。もちろん大津留氏は、利用者さまや家族から了承を得て発信していたのだが。
賛否が巻き起こっても発信を続けたのは、こんな思いがあったからだ。
僕たちの仕事は、現実こうです、と。皆さんに知ってもらって、そのうえで求職者の方には入ってきてほしくて。
仕事のリアルを隠さない。それが、結果として採用のミスマッチを減らすことにもつながる。
投稿を見た人からは「見学させてください」「働きたいんです」といったDMが次々と届くようになった。そこから面接へと進む流れは、一般的な採用と変わらない。変えたのは、その入り口をSNSにしたということだ。
大津留氏がSNSを運用するのは、現場の仕事を終えた後。撮影は他のスタッフにも協力してもらい、編集や投稿は夜に一人で行っていた。
何度も投稿が「バズる」うちに、介護事業者から「自社の採用を支援してほしい」という依頼が入るようになる。
「これ、仕事になるんや」
そう気づいた大津留氏は、デイサービスで働きつつ、20歳から個人事業主として企業に対するSNSマーケティングの支援も始めた。
マーケティングを学ぶために学校に通ったわけでも、本を読み込んだわけでもない。全部、実践。自分で試して、反応を見て、また試す。その繰り返しが、現在の事業の土台となった。

SNSスキルを軸に、業界の人材採用や働き方を変えていく
SNSによる採用支援は次第に広がり、事業としての本格的な展開を考えるようになる。そして2024年3月、24歳で合同会社RKWを設立。その時点で、すでに顧客を抱え、外部の協力スタッフとのつながりもできていたため、法人化したというだけで取り組むことは変わらなかったという。
会社設立時、大津留氏は高校の野球部で一緒だった仲間に声をかけた。誘いに乗り、今も大津留氏の右腕的存在となっているのがK氏だ。
Kは中学時代の野球部の友人です。まったく別の会社の正社員を辞めて来てくれました。
順調に契約を増やして結果を出し、8割のクライアントで、採用費を抑えながらそれまで以上の採用実績を上げているという。中には、立ち上げ当初は1店舗しかなかった事業所が、支援を続けている2年間の間に6〜7店舗まで増やし、すべての人材をSNS採用でまかなっている例もあるという。
そんなSNSを知り尽くした大津留氏が、SNS運用に興味を持つ企業に伝えたいのは「専門家の力を借りることの重要性」だ。
人材採用に莫大な費用をかけるより、一日でも早くSNSを活用したほうがいいのは明白なんですが、中途半端にやるぐらいなら、やらないほうがいいと思います。企業としての見え方が悪くなるので。正直、これだけSNSが普及してバズるコンテンツが多い中で、素人の方が今から始めてもうまくいかない。だったら最初はプロに投げて、評価を見ながら徐々に内製化していくべきだと思いますね。
また現在、RKWではSNSを活用した採用支援に加え、もうひとつの事業として「ケアクリエイターズ」も展開。介護・福祉の業界で働く人たちに動画編集やSNSのスキルを教え、副業や収入アップにつなげる取り組みだ。
この業界、介護報酬は国が定めているので、一般企業のように利益を大きく伸ばして給与を上げることが難しいんです。だったら、動画編集のような新しいスキルを身につけることで、介護職の人たちの収入を上げられるんじゃないかって。
介護・福祉業界で働く人が、その専門知識を持ったクリエイターになる。新たなスキルを業界内で活かしてもいいし、別の業界の仕事を受けたっていい。RKWが目指すのは、単に採用数を増やすことだけではない。介護・福祉に携わる人たちの働き方そのものに、選択肢を増やすことでもある。

新会社をつくり、同じく人手不足の別業界にも進出
そして今、大津留氏は新たな領域にも踏み出している。
2026年7月、配送・運送を手がける新会社として、株式会社RKWを設立したのだ。
運送も、介護と1、2位を争うくらい人手不足なんですよね。なくてはならない業界なのに。僕らは介護で採用支援ができたから、運送でもできるんじゃないかと。
まず、新たな自社のドライバー採用をSNSでやってみた。結果、わずか半年の準備期間で30人を超えるドライバーを獲得することができた。「運送業界でも人を集められる」という実績ができたことで、今後は介護・福祉業界と同様に他社の採用支援を広げる考えだ。すでに契約済みの企業があるという。
介護とは違うノウハウがあるんじゃないかと思っていたんですが、運送業界も基本は同じでした。結局、求職者の方々がどういうことを求めているかや、実際その会社に入ったとして、どんな自分をイメージできるか。
それを僕らが提示していくだけなので、業種は関係ないんですよね。
面白いのは、いきなり「運送業界でも採用支援を」から入るのではなく、「運送業そのものを」自社でやってみようとして、SNS採用の効果を実証したことだ。もちろん、運送・配送事業は今後も継続していく。こちらは「副キャプテン」K氏が代表を務める。
介護・福祉業界でのSNS採用も、「とにかくやってみる」ことから始めた大津留氏。
10年後、20年後の大きな夢とか、そういうのは特にないですね。とりあえず「いま、できそう」と思ったことをやっていく。
とにかく、実践。その姿勢で大津留氏は、軽快なフットワークで時代を駆け抜けていくのだろう。
ケガで野球を断念した時のように、この先SNSに代わる何かが出てきても、不測の社会変化が起こっても、「できそう」なことをすぐに見つけながら。
