シビュラ株式会社 / CEO 国宝孝佳 氏
店内にいる客の動きをカメラで捉え、接客が必要なタイミングをスタッフに知らせる。そんなAIカメラシステム「Fortuna(フォルテナ)」を通じて、人の行動から“気づき”を生み出す仕組みをつくっているのがシビュラ株式会社だ。
同社を率いる国宝孝佳氏は、もともと理学療法士として人の身体や動きに向き合ってきた。
その経験を生かしながら、現在はAIを活用した新たな事業づくりに挑んでいる。
今回は「Fortuna(フォルテナ)」が生まれた背景や、事業として広げるまでの試行錯誤、その先に描く未来について国宝氏に聞いた。

接客のタイミングを逃さない、リアルタイムで客と店員をつなぐAIカメラ
広い家具店で、客がソファに腰を下ろす。すると売場スタッフのスマートフォンに「ソファに座っています」と通知が届く。
シビュラ株式会社が開発する「Fortuna」は店舗に設置した固定カメラの映像から客の動きを捉え、接客につながる行動を検知するとただちにスタッフへ知らせるシステムだ。
従来の防犯カメラは、何か起きた後に映像を確認する使い方が中心です。今あるAIカメラも、人流解析やヒートマップ(※1)を使って、「この辺りに人が多かったから、棚の位置を変えよう」と、後から売場の改善に生かすものが多い。(※1)ヒートマップ:2次元データの個々の数値を、色の種類や濃淡(サーモグラフィのようなグラデーション)で視覚的に表現したグラフや可視化手法のこと。
一方「Fortuna」は、今その場にいる人の動きを見て、「接客した方がよさそうなお客さんがいますよ!」とリアルタイムで店員さんに知らせることができる。
関節の動きや角度などから、家具に実際に座るといった、接客につながる特定の行動を判別するんです。そこが大きな違いですね。
シビュラを率いる国宝氏が、「Fortuna」と相性の良い場所として挙げるのは、売場が広く高単価の商品を扱う店舗だ。
ホームセンターや家具・カー用品などの大型量販店は、接客が必要になるタイミングを予測しにくい。だが、販売の機会に備えて専門スタッフを常時配置すれば、人件費の負担はふくらむ。
10万円を超えるような、いわゆる高単価な買い物では、店員さんに最後の一押しをしてもらいたい人も多いそうです。でも、そのためだけに自分から店員さんを呼ぶのはためらってしまう。お店にとっても、本当は買いたかった人を接客できないまま帰してしまうのは、もったいないですよね。
実際に、「Fortuna」は現在、大手のカー用品やホームセンター、家具量販店で導入されている。
例えばカー用品店のある売場で客の動きを検知すると、店舗スタッフのスマートフォンに通知が届く。スタッフは客に声をかけ、商品に詳しい担当者によるオンライン接客へ案内する。専門スタッフが売場にいなくても、必要なタイミングで説明につなげられる仕組みだ。
「Fortuna」(フォルテナ)は「幸運の女神」(ローマ神話)の名前。お客さんと店員さんが出会うきっかけをつくる、という意味も込めています。

きっかけは車いすを使う友人の不便…インクルーシブデザインに挑戦
国宝氏は2008年に大学を卒業し、理学療法士として病院で働き始めた。2016年には株式会社国宝を設立(2025年にシビュラへと社名変更)。訪問看護事業を手掛けながら、病院という組織に馴染めなかった医療従事者とともに、新たな仕事やビジネスをつくる場を設けてきた。いわば「キャリアのリハビリ」である。
病院では厄介者のように見られていた人が、別の介護福祉施設でエリアマネージャーとして活躍するようになった、というケースもあります。環境を変えて、自分に足りないものにも改めて向き合うことで、また成長していく。その人が本来力を発揮できる状態に近づいていくことも、僕はリハビリだと思っています。
その後国宝氏は、障がいのある人と企業をつなぎ、商品やサービスの使いやすさを一緒に考える活動に携わるようになる。企業の商品開発に障がいのある人にも参加してもらい、実際に商品を使う様子から、これまで見落とされていた不便や改善点を探していく。こうした考え方が「インクルーシブデザイン」(※2)だ。
(※2)インクルーシブデザイン:高齢者や障がい者、外国人など、従来のデザインプロセスから外されがちだった多様な人々を企画の初期段階から巻き込み、共に新しいモノやサービスを創り出すデザイン手法。
たとえば、障がいのある人がペットボトルのふたを手で開けられず、歯を使おうとする人がいる。企業の担当者とともにその様子を見ることで、それまで気づかなかった使いづらさが見えてくる。
国宝氏は、こうしたワークショップを大手企業と設け、商品をより使いやすくするためのアイデアを一緒に考えていた。そこでは新たな発見や改善案が生まれる一方、商品として形にするまでには壁があった。仕様を変えることへの慎重さや安全面への懸念もあり、企業側がすぐに商品化に向けて動き出すのは難しいという。
ワークショップでは興味を持ってもらえるんです。でも、そこで考えたものが実際の商品になるところまでは、なかなか進まない。僕としては、それがペットボトルになってコンビニに並ぶところまでいけば、社会にインパクトを与えられると思っていました。それなら、自分たちで社会実装(実社会の現場で実際に使える形にして役立てること)までやり切ろうと思ったんです。
具体的な仕組みを考えるきっかけになったのが、車いすを使う友人との買い物だった。
コンビニに入り、ある棚で動きを止めてしまった友人。欲しかったグミは、高い位置のフックに掛かっており、車いすに乗ったままでは取ることができなかったのだ。
この時代に、買い物も自由にできない人がいるのか!と思いました。僕は理学療法士なのに、そうした不便を知らなかった。ショックでしたね。
そこで国宝氏が考えたのが、困っている人の動きをカメラで捉え、店舗スタッフに知らせる仕組みだった。自分から助けを求めなくても、必要なタイミングでスタッフが気づき、声をかけられるようにする。その発想が、現在の「Fortuna」へとつながっていった。
きっかけは、車いすを使う人の買い物を支えたいという思いでした。でも、障がいのある人が感じている不便を起点に考えたものは、他の多くの人にとっても使いやすいものになる。これまで十分に届いていなかった人の視点を取り入れて、みんなが使いやすいものをつくる。それが、僕が考えるインクルーシブデザインです。

人の動きを読む技術を、続く事業へ!160店舗の営業と資金調達で磨く「Fortuna」
現在、シビュラの中核を担うのは、代表の国宝氏とCTO(最高技術責任者)の中村氏だ。
中村氏が画像解析をはじめとする技術面を担い、国宝氏は営業や資金調達に加え、「Fortuna」が人のどのような動きを検知するのか、その判断基準をつくっている。
AIによる画像解析は、カメラを設置すれば、それだけで人の行動を正しく判断できるわけではない。何を見て、どう判断するのか。そのもとになるデータが必要になる。
そこで生きたのが、国宝氏が理学療法士として人の動きを見てきた経験だった。実際に店舗へ足を運び、客の姿勢や動きを観察。「こうした動きをする人は、購入する可能性が高い」という判断の基準をつくり、システムに反映していった。
画像解析をゼロから学習させようとすると、何百時間、何万時間というデータが必要になります。だから、人を見てきた僕の経験を使って基準をつくる。蓄積したデータをAIで一般化し、判断してもらう仕組みにしています。
カメラが動くようになると、次に待っていたのは、導入してくれる店舗を探すことだった。
国宝氏は店舗への飛び込み営業を開始。まずは費用をかけずに試してもらおうと無料導入を提案したが、なかなか首を縦に振ってもらえなかったという。
「うちは接客の見逃しなんてない」「店舗には決裁権がないから本部に聞いてほしい」と、いろいろな理由で断られました。無料でも導入してもらえないとなると、本当にニーズがあるのか、自分たちも不安になってきますよね。
3カ月で回った店舗は160店。当時は国宝氏と中村氏のほか、営業や開発を担う外部メンバーも加わっていた。
国宝氏が支えにしていたのが、新しい商品やサービスは、まずごく一部の人から受け入れられ、徐々に広がっていくという「イノベーション普及理論」(新しい商品・サービスが市場に浸透していく過程を早さに応じて説明するマーケティング・社会学の理論)の考え方だ。
最初に「Fortuna」を受け入れてくれる相手に出会うまで、続けるしかない。そうチーム言い続けてきた国宝氏自身も、導入ゼロが続くなかで次第に不安を募らせていった。
そんな時、161店舗目の大手カー用品店で初めて導入が決まって、続けてその次の家具量販店でも決まったんです。1週間ほどの間に立て続けに決まって、ようやく事例ができました。
「Fortuna」をさらに広げるため、国宝氏は上場も見据えながら資金調達に取り組み、成長が見込まれる企業に投資するベンチャーキャピタル(VC)との面談を重ねている。ただ、そこでも一筋縄ではいかない。
VCからは、プロダクトについて「斬新でおもしろい」と言ってもらえます。一方で、事業としてどう成長させていくのかについては、まだまだ指摘を受けているところです。
たとえば求められたのは、「大きな市場がある」と示すだけではなく、実際に値段はいくらなら、何店舗が導入するのか。そこからどれほどの売上につながるのかを、一つずつ積み上げて考えることだった。
今も、日々いただくアドバイスを取り入れながら事業計画の軌道修正をしています。「じゃあ、こう考えたらどうだろう」とつくり直して、また見てもらう。その繰り返しですね。
「Fortuna」をどう広げ、継続して提供できる事業にしていくのか。国宝氏はいまも、その形をつくっている最中だ。

ビジネスと思いやりを両立する未来、「おせっかいの民主化」を街へ
「Fortuna」が捉える、人の動き。正確に読み取れれば、どのような基準をAIへ与えるかによって、通知する内容を変えられる。国宝氏が今後見据えているのは、店舗の外、つまり街中へと技術を広げる未来である。
街中のカメラの裏側に僕らの技術が入って、迷子や、段差で転んだ人、トラブルに巻き込まれそうな人を見つける。近くにいる人へ「困っている人がいませんか?」と通知が届けば、あたりを見回して、「大丈夫ですか?」と声をかけられますよね。教えてくれるのはAIだけど、手を差し伸べるのは人。そんな温かい社会をつくりたいんです。
一方、人の行動をカメラで捉える技術には、二つの側面がある。
困っている人や異変に気づくための「見守り」になる一方で、常に行動を見られている「監視」と受け取られる可能性もあるのだ。
その境界をどこに引くべきか。国宝氏自身、現時点ではまだ答えを出しておらず、今後の実証を重ねながら探っていくという。ただ、「困っている人を見つける」という軸は明確だ。
僕自身、監視されるのは大嫌い(笑)。でも、昔から周りをよく見て、困っている人がいたら手助けする方でした。だから「Fortuna」は、ある意味で僕の分身みたいなもの。僕一人では気づけない場所でも、技術が代わりに見つけてくれるんです。
シビュラは、この考えを“おせっかいの民主化”という言葉に込めている。技術によって誰かの困りごとに気づき、人が手を差し伸べられる社会を目指す。
その理想を、事業としてどう実現していくのか?国宝氏は、こう考える。
一番やりたいのは、街中で困っている人を見つけることです。でも、それを実現し、続けていくには、思いを持つだけでは難しい。夢や理想で終わらせないためにも、まずは店舗の売上や人員効率といった、資本主義のものさしでも分かる価値をつくる。つまりビジネスと思いやり、その二つをどちらも諦めずに進んでいきたいと思っています。

